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福島地方裁判所 平成4年(行ウ)8号 判決 1992年11月09日

福島市新町五番二六号

原告

持地トラ

福島市森合町一六番六号

被告

福島税務署長 日下知一

右指定代理人

中條隆二

阿部洋一

菊地隆雄

芳見孝行

千葉嘉昭

久城博

菅野正弘

平賀甫

小板橋芳宏

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一原告の請求

被告が、原告の昭和六三年分の所得についてした、納付すべき税額を三七八万八、六〇〇円、過少申告加算税の額を五四万二、〇〇〇円とする更正及び加算税の賦課決定処分を取り消す。

第二事案の概要

本件は、原告が国から受領した補償金二、一五七万一、七〇〇円について、被告が租税特別措置法(平成元年法律第一二号による改正前のもの、以下「措置法」という。)三三条の四による三、〇〇〇万円の所得の特別控除を認めずに課税したのは違法であるとして、その課税処分の取消しを求めるものである。

一  事実の経過

1  原告が国から補償金を受領した経緯

(一) 原告の父持地寅次郎は、荒川の河川敷地である福島市矢剣町一五九番畑外二二筆の土地(以下「本件土地」という。)を所有していた。

(二) 福島県知事は、昭和三年四月七日、旧河川法(明治二九年法律第七一号)二条一項に基づき本件土地を河川区域として認定した。右認定の結果、同法三条により本件土地についての寅次郎の私権は消滅し、寅次郎及びその相続人は旧河川法施行規程九条により本件土地の占用許可の申請をなし得ることになった(同条によれば、都道府県知事は、荒地でないものは公益を妨げない限りにおいてその占用を許可すべきものとされている。)。

(三) 昭和二二年一〇月二八日、寅次郎が死亡した。

(四) 昭和四〇年の河川法の施行後、本件土地は一級河川である荒川の河川区域である旨の指定を受けた。

(五) 福島市は、昭和四六年に本件土地を含む河川区域内の土地の占用許可を得て、現在、都市公園法に定める都市公園である「福島市営荒川運動公園」の敷地の一部としてこれを使用している。

(六) 東北地方建設局長は、昭和六三年八月二九日、原告が寅次郎の相続人として行った本件土地の占用許可申請に対し、河川法施行法一九条により効力を有する旧河川法施行規程九条に基づき、不許可の処分をした。

(七) 原告と国(東北地方建設局長)は、昭和六三年九月一日、右不許可処分に伴い、河川法施行法一九条により効力を有する旧河川法施行規程一〇条一項に基づき本件補償契約(福島県知事の許可を受けて本件土地を占用することができることとされている権利が消滅することにより生ずる損失の補償金を原告に支払うものとする旨の権利消滅補償契約)を締結した。

(八) 原告は、同年一〇月六日、本件補償契約に基づき、国(東北地方建設局)から補償金二、一五七万一、七〇〇円(以下「本件補償金」という。)を受領した。

(原告が、昭和六三年に本件土地に関し河川法施行法一九条、旧河川法施行規程一〇条一項に基づき本件補償金を受領したことは、当事者間に争いがなく、その余の事実は、乙第四ないし第六号証及び弁論の全趣旨によりこれを認めることができる。)

2  被告の本件補償金に対する課税処分

被告は、本件補償金には措置法三三条の四(譲渡所得等の特別控除)の適用がないとして、原告の昭和六三年分の所得について、納付すべき税額を三七八万八、六〇〇円、過少申告加算税の額を五四万二、〇〇〇円とする更正及び加算税の賦課決定処分(以下「本件処分」という。)をした(当事者間に争いがない。)。

二  争点

本件補償金の取得について、措置法三三条の四の適用があるか。

第三争点に対する判断

1  まず、本件補償金の所得区分等について検討する。

旧河川法に基づく河川区域の認定を受けるまで本件土地の所有者であった寅次郎は、右認定後、公益を妨げない限り都道府県知事の許可を得て本件土地(河川の敷地。荒地ではない。)を占用できる権利(以下「占用を期待できる権利」という。)を取得したということができる(旧河川法施行規程九条)。

従って、本件補償金は、寅次郎が有していた「占用を期待できる権利」を相続によって取得した原告に対し、その権利の消滅の対価として支払われたものであると解されるから(河川法施行法一九条により効力を有する旧河川法施行規程九条、一〇条一項。なお、同項に定める「相当ノ補償金」とは、当該土地が廃川敷地となる見込みがないときは土地代相当額であるとの行政解釈がなされており、本件補償金もそれに基づいている。)、本件補償金に係る所得は譲渡所得(所得税法三三条)に当たる。

そして、右の譲渡(本件では権利の消滅、以下同じ。)のあった年の一月一日において、譲渡の対象となった資産の所有期間は一〇年を超えている(本件の「占用を期待できる権利」は、<1>その取得の時期は、所得税法六〇条一項により、旧河川法の規定に基づいて被相続人である持地寅次郎の私権が消滅した昭和三年四月七日であり、<2>その譲渡の時期は、本件補償契約の成立した日、すなわち、本件補償契約書が作成された昭和六三年九月一日である。)ので、本件補償金に係る所得は、措置法三一条に規定する長期譲渡所得に該当する。

2  本件補償金の取得について、措置法三三条の四の適用があるというためには、<1>実体的には、本件補償金の取得が措置法三三条一項各号又は同法三三条の二の一項各号に該当するが、その年中に右各条に定める課税の特例の適用を受けないものであることが必要であり(措置法三三条の四の一項)、<2>手続的には、適用をうけようとする年分の確定申告書に、右規定の適用を受けようとする旨の記載があり、かつ、右規定の適用を受けようとする資産につき公共事業施行者から交付を受けた買取り等の申出があったことを証する書類等を添付することが必要である(措置法三三条の四の五項)。

しかしながら、本件補償金の取得は、<1>の措置法三三条一項各号及び同法三三条の二の一項各号のいずれにも該当しない。原告は、前記のとおり河川法施行法一九条により効力を有する旧河川法施行規程一〇条一項に基づいて締結された本件補償契約により本件補償金を取得したものであって、本件補償金の取得は、明文上右各号のいずれにも当たらないものであるし(措置法三三条一項一号及び二号に規定する「土地収用法等の規定に基づく収用に伴う補償金又は収用を前提とした買取りによる対価を取得する場合」にも当たらない。)、また、措置法に定める租税特別措置は、右措置により国民の租税負担に何らかの不公平を必然的に招来することを踏まえながらも、特定の政策目的を達成するために臨時的、例外的に租税負担の特例を認めたものであるから、本件補償金の取得について右各号を類推適用すべきものとも認められない(なお、原告は、<2>の手続要件に関して、被告が本件補償契約の契約書中に「荒川運動公園の敷地に係る補償である」旨の文言が欠落していることを奇貨として、措置法の適用を拒否した旨の主張もしているが、そもそも、<1>の実体要件がないのであるから、失当である。)。

従って、その余の点について判断するまでもなく、本件補償金の取得について、措置法三三条の四の適用はない。

よって、原告の主張は理由がなく、被告の本件処分は適法であるから、原告の請求を棄却することとし、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 武田百次郎 裁判官 手島徹 裁判官 渡部勇次)

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